第1回「相関設計」セミナーを9月12日(金)に開催します。
第1回 CDS セミナー
日時: 2025年9月12日(金) 15:00-17:00
場所: 東京大学柏キャンパス 基盤棟大講義室 (2階)
講師: 高橋 拓豊 博士 (オックスフォード大学)
ZnCu3(OH)6Cl2のスピンノイズ測定:スピノンが媒介する観測スピン間の相互作用
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低温で磁気秩序を示さない状態は広くスピン液体と呼ばれ、盛んに研究されているが、物質ごとにどの種類のスピン液体が実現しているかを識別することは難しい。そのための手法として、物質が自発的に生じるスピンノイズを測定することが近年提案され、古典スピンアイスDy2Ti2O7[1]やスパイラルスピン液体Ca10Cr7O28[2]の理解に貢献してきた。
本研究ではスピンノイズ測定の手法を、代表的な量子スピン液体候補物質であるハーバートスミサイトZnCu3(OH)6Cl2に適用した。本物質では、スピン 1/2 のCu2+が対称性の高いカゴメ格子層を形成し、それらが非磁性のZn2+層に隔てられており、理想的な2次元カゴメ構造が実現している。一方で、いくつかのCu2+がZn2+を置換することで準自由スピンがカゴメ層間に生じている。これらはZnCu3(OH)6Cl2の理解を妨げる「不純物」と従来みなされてきたが、本研究では「観測スピン」と再定義して、カゴメ層の量子状態を探るプローブとして利用する。
我々は、fT/√Hzの高感度、μsの時間分解能、mK領域の温度範囲を有する SQUIDスピンノイズ測定装置を制作し、ZnCu3(OH)6Cl2の観測スピンから生じる磁性ノイズ𝑀(𝑡, 𝑇) の検出に成功した。スケール不変なノイズパワースペクトル𝑆𝑀(𝜔, 𝑇) ∝ 1/𝜔𝛼(𝑇)とノイズ分散𝜎𝑀2(𝑇)において、260 mK付近で鋭い転移がみられた。この現象を説明するため、カゴメ層が量子スピン液体であると仮定し、スピノン励起が媒介する観測スピン間の相互作用モデルを構築したところ、実験データと包括的に整合する結果が得られた。このことは、観測スピン間の相互作用がスピノンに媒介されていること、ひいてはカゴメ層が量子スピン液体状態にあることを示唆する。
[1] R. Dusad et al. Magnetic monopole noise. Nature 571, 234 (2019).
[2] H. Takahashi & C.-C. Hsu et al. Spiral spin liquid noise. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 122, e2422498122 (2025).
[3] M. R. Norman, Colloquium: Herbertsmithite and the search for the quantum spin liquid. Rev. Mod. Phys. 88, 041002 (2016).
[4] H. Takahashi, J. Murphy, M. Wood-Thanan et al. Spinon Mediation of Witness-Spin Dynamics and Ground State in Herbertsmithite. Submitted, in prep for arXiv (2025)
問い合わせ先:芝内孝禎(東京大学新領域創成科学研究科)shibauchi[atmark]k.u-tokyo.ac.jp